いままでの記憶

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滅び行く世界で運ぶべきもの『終のステラ』感想【ネタバレ注意】

終のステラ | Key

人間と機械の、旅の記憶──

 

2022年9月30日に発売されたKey最新作であり、2020年発表キネティックノベル三作のラストを飾る『終のステラ』

諸々立て込んでいてプレイが遅れましたが、ようやくクリアしたので感想記事です。

 

以前記事を書いたルナリアと同じく、「選択肢なし・お手軽価格・短編ノベルゲーム」であるキネティックノベルという分類の作品です。DL版なら値段が1980円と安いですし、プレイ時間はボイスを全て聞いても7~8時間程度なのでオススメです。

www.dlsite.com

個人的には、Keyに触れたことない人に一作品勧めるなら間違いなく終のステラだなと思いました。短いボリュームでありながら全てのテキストが面白く、ラストには大きな感動が待っている大傑作でした。前々作のLOOPERS前作のルナリアも文句のつけようがない大満足の作品でしたが、好みの度合いで言うと今回が一番でした。というか人生でプレイした短編ゲームで一番好きです。

今回は主人公が34歳の大人ですし対照的にヒロインは12歳ほどの外見のアンドロイドである都合上、恋愛要素がゼロなのでギャルゲー色は皆無。SWAVさんによる美麗なイラストもあり、これまでKey作品を敬遠していた人も受け入れやすい作品だと感じました。シナリオは有名ライターからよく名前が挙がるあの田中ロミオさんですし、オススメです!

あと木村良平さんと指出毬亜さんのファンはやった方が良いと思います。演技が凄すぎる。

 

というわけで、あまりに素晴らしい作品だったので宣伝が長くなってしまいましたが、以下感想本文です。

なお、この記事は期限設けないと書けない人のための Advent Calendar 2022の8日目の記事です。あまりに面白くて、書くこと多すぎて遅刻しました。一万字も書いたの久しぶりだよ。

 

ネタバレ注意!

 

 

 

 

 

 

シナリオ

一言で言うと、完璧でした。

序盤の二人が出会い旅の始まりまでテンポよく行われていく世界観の説明、中盤のハイクオリティな戦闘描写を挟みつつ徐々にフィリアが人間らしくなっていく様子を描く探索パート、そして終盤のジュードの葛藤と選択の末に果たされる継承。前2作のキネティックノベルと同じく、8時間ほどのボリュームで充分に感情移入させるために一切無駄のない構成でした。

本当に無駄がないし、ダレない。全ての文章が簡潔で、味があって、とても読みやすい。

テキストがここまで面白いノベルゲームはなかなかないと思います。それぐらい素晴らしいお話でした。

 

 

 

序盤の旅の出発時点で単純に世界観が面白すぎるので一気に引き込まれていたのですが、このゲームで最初にびっくりしたのはあまりに背景・演出用グラフィックが多すぎることですね。ギャラリーによると前者は80枚、後者は76枚あるみたいですね。1980円のゲームでやることか?旅する話だし特殊な世界観だから量が必要になるのはわかりますが、にしても限度があると思います。2021年→2022年春→2022年9月30日と二度の延期を行ったのもこれには納得。演出の力の入れ方がおかしい……

とにかく頻繁に絵が変わるので、文章がただでさえ面白いのに全く退屈しないで済みました。ただ単に文章が面白いだけなら極論小説でいいので、ノベルゲームは音・絵を活かした演出力でそこを補強するのが魅力ですし、その点において今作は最高級のゲームでしたね。Keyは元々演出が凄いブランドとはいえ、ここまで短いボリュームで圧倒的物量で攻めてくるのは初めて見た……

 

旅は始まってからは、ポストアポカリプスだけあって過酷なお話が続きました。かつて土地を生きた人の亡骸は思わず感情移入してしまいましたし、アーコロジーでの人間たちとの戦いは戦うしかないと分かっていても胸が痛みました。こんな過酷な世界は、この旅が終わって偉業が成し遂げられたら良い方向に本当に変わるのだろうか?と疑問を抱くことも。

重たいシーンの連続ではありましたが、個人的にはそんなに重っくるしい気分にはなりませんでした。適度にコミカルで癒される可愛いシーンが挟まる絶妙なバランス感覚により疲れすぎませんでしたし、何よりジュードとフィリアの関係性が好みすぎて本当にずっと楽しかったです。萌えまくり。

運び屋と荷物でありながら、人間と機械であり、父の娘のようにも見える。この特有の関係性を、メインキャラ2人であるため短編でも圧倒的な密度で展開するのがキネティックノベルの強みでしたね。積み重ねがとにかく丁寧だったので、終盤の展開で感情移入するのに一切の不足がない。

個人的に擬似家族って大好物ですし、宣伝でアピールされていた部分なのでそこを最も楽しみにプレイしたため、見たいものが見れてこの時間で買って良かった……ってなってましたね。

ただ、ジュードの過去が徐々に見えてくるにつれて、軽々しくこの四文字で関係を表しちゃダメなんだな……彼はこの関係をそう表現したくはないだろうから……とちょっと反省しました。あくまで運び屋と荷物である二人が最終的にどうなるのか期待半分恐怖半分で読み進めていました。だからこそクライマックスシーンの感動は凄かったんですが。

 

どのシーンも大好きなのですが、旅パートで特にお気に入りのシーン3つについて感想を書きます。本当は全部のシーンについて書きたいのですが、めちゃくちゃ長くなってしまうので……

 

まずチャプター12の海でのシーンですかね。

海の美しさを大人であるジュードはすっかり忘れてしまっているけど、まだ端末上での知識しかないフィリアは大はしゃぎな対比が良かったです。思わず半日もフィリアを遊ばせてしまうジュード、序盤からは考えられないほど彼女のことを大事にしている。

10分沈んでジュードが絶望してあっさり浮き上がってくるフィリアのシーン、本編屈指のコミカルさだし人間とロボットならではで大好き。あのシーンのためだけにフィリアの海草まみれ立ち絵が用意されてるの凄いゲームだ……

 

次はチャプター13の中間地点でのお話。

ガブリエルがとにかく印象的でした。背丈が高くて自分より長く生きているけども知能水準が違う故に、フィリアが弟分のように見ていて振り回してるのが可愛らしくて……

彼がフィリアのおかげで少しずつ人間らしさが芽生えたが故に、自爆を決行した時にはもしかしたら二人のことを思い出してたのかもしれない……なんて考えるとちょっと切なくなります。

あとフィリアの立ち絵がここで変わってついに来たか!ってなりましたね。先行情報でこの姿が意味ありげに映ってていつこの格好になるのか楽しみにしてたので、ちょっとした感動がありました。

 

最後の一つは、チャプター14から16のデリラのエピソードですね。……これらの3シーン、時系列上連続してるな。それだけチャプター12の全体折り返し以降は特に楽しかったということでしょう。

もうここまで進むと二人のことがすっかり大好きになってしまったので、暴行され続けるジュードの姿は見ていて辛くなりましたし、早く誰か二人を助けてー!!って叫びたい気分に。おかげでデリラがやって来てからの脱出はテンション上がりましたが。

デリラは事前情報でかなり気になっていたキャラだったので、味方サイドだったのが嬉しかったです。戦闘パートでの頼もしさも凄かったですし。ただ、フィリアにはこうやって人を殺すアンドロイドにはなってほしくないとも感じましたね。だからこそ終盤のフィリアの目が赤くなるシーンが……本当に……

あれだけ公式サイトで大きく紹介をされている彼女が、すぐ退場したのには驚かされましたね。シンギュラリティマシンであっさり破壊されるとは……確かに全体で見れば4番目に出番が多いキャラクターではあるので主要人物でも間違いではありませんが、こんなことになるなんて……

登場時間自体は短めでしたが、デリラの父への想いは充分描かれてましたし、破壊された姿は無惨でしたし、ラストシーンは充分に感情移入できて胸に迫るものがありました。「死に方を選べるやつは幸せなんだ」というジュードのセリフが印象的でしたし、この二人の離別はデリラのように幸せな気持ちであってほしいと以降祈りを捧げながら物語を読み進めていました。

後で公爵のデリラはひどい扱いを受けていたという発言に関しては明かされないままですが、個人的には公爵の納品を防ぐための嘘だったと考えています。雑な扱いを受けていたわりには戦闘方法をしっかり教わっているし、納品拒否後に自我を成長できた理由があまり思いつかない。デリラの父親が彼女への愛を持ってしまったが故に、一芝居売ったのではないかと。

もちろん荷物として戦闘訓練を積ませただけで、最初から最後までひどい扱いをしてきて、デリラは他の要因で自我が成長しただけなのかもしれませんが。こればかりは信じるか信じないかの話ですね……情報開示の度合いがちょうど良くて、謎の残し方が上手い。

 

終盤の地上での旅が終わってからの怒涛の展開は、どのシーンが忘れられないほど濃いものでした。

 

車の中での、ジュードがフィリアに嘘をつけないが故に突き放すしかないシーンはめっっっちゃくちゃ辛かったです。辛すぎて逆に涙が出ませんでした。これまで構築してきた関係性を、こんな形で終わらせないでくれ……ってと心の底から祈っていました。

rionosさんの挿入歌が用意されてるとは聞いてましたが、ここで「終の祈り」が流れるとは。クライマックスの感動的な別れのシーンではなく関係性が崩れていく場面で挿入歌を流すというのは、Keyでもなかなか見ない手法だったので驚きました。ジュードの祈りが込められた優しい歌声のおかげで物凄い感情移入できましたし、このゲーム屈指の名演出ですね。

終のステラはティザーPVの「おまえなんかに名前をつけてやるんじゃなかった」というセリフが印象的だったので、こういう場面だったのか……!と別の感動もありましたね。フィリアがとんでもない人に害をなす存在に変貌してしまい、ジュードが思わず叫んでしまう……って展開を予想してたが、全然違いました。優しくて悲しい”嘘”のセリフだったんですね。余計しんどくなったので勘弁してほしいです。お話作りがうますぎる。

 

その後のジュードが密林の中でフィリアを守り抜くシーンは、ここで絶対ジュード死ぬじゃん!!と謎の確信があったのでもうやめてくれ……と絶望していました。無事外れて良かったけど。

実は、ジュードが死にフィリアだけ生き残ることだけは分かってたんですよね。発売前にOP映像をあまりに曲も絵もかっこよすぎてひたすらリピートしてたので、プレイする前にフルで聞いたんですが……最後の歌詞が「あなたが生き抜いた世界は まだ私の中で息をする」で全部察してしまった。途中までプレイすればだいたいのプレイヤーが思い至る予想ではあるので大した問題ではありませんでしたが、歌詞があまりに直球すぎてびっくりしました。

壊れてしまった関係を修復するために、運び屋として戦い抜くことで止まってしまったフィリアを動かそうとするジュードの不器用さが切ないですね。ただ一言、さっき車で話したことは全部ウソだって言えばいいだけなのに。

覚悟を決めたジュードが語る過去。あまり考えずプレイしていたので娘がいた事実には驚きましたし、だからこそここまでの仕事人に育ったのかと納得がありましたね。

もう過去語りだした時点でジュード、さようなら……って気分だったのでフィリアへ本音を話して、分かり合えて、二人で進んでいく様には本当に安堵しましたね。これから先この二人に何があったとしても、嘘で壊れた関係のまま終わらなくて良かったです。そういう話だったら鬱ゲーの極みだったしこんなにこのゲームのこと好きになってないだろうし……

 

まあ、安心した後にシンギュラリティマシンとの戦いでこれジュード今度こそ死ぬじゃん!!とまた焦るハメになったんですが。濃厚な戦闘描写はテンション上がりましたし楽しかったんですけど。ドラマ部分もSF描写も全部面白いの、どういうこと?

あと文章読むだけのゲームのはずなのに、異常なまでの迫力と緊迫感があったのは尋常じゃないです。テキストのクオリティと演出力の噛み合いがあってこそですね。

デリラの一件もあり、フィリアがここでジュードを守るために初めて銃を使ったのはここまで苦しい話ばかりだったのでアツい展開でした。すっかり頼もしくなったフィリアに、プレイヤーであるこちら側までなんだか嬉しくなりましたね。

 

宇宙に到達し、「空の向こうにいけば、人間になれる――」というキャッチコピーの回収に胸躍る中。ひたすらハラハラする展開が続いた後の一時の癒やし(アンドロイドの頭部たくさんは全然そんなことないですけど)とも言える探索パートを終え、いよいよ公爵との対話に。ジュード死なないで……って三回目の祈りを捧げてました。こんなにKey作品でハラハラしたの初めてだ。

公爵の語る真相はSF好きとして非常に面白いものだったので興味深かったですし、こんな設定を考えられる田中ロミオさんの凄さを改めて感じました。

偉業は、人類を確実に救済への方向へ持っていくもの。ここまでの展開から公爵はまず悪人ではないと考えていたのですが、その通りでしたね。終のステラという壮大なタイトルだけあって、それに見合うスケールのお話に。

だからこそ、ジュードの選択は王道的でありながらカタルシスがありました。人類救済のための壮大な計画を、ただ一人が選択した愛によって台無しにする。フィリアを人間以上の存在である人類救済の女神ではなく、一人の人間に留める。こういう世界より大切な人を選ぶような話(結果的にはちょっと違う印象になりましたが。後述)が大好物なので、こうなって嬉しかったです。

あと複写の提案にフィリアが二人になるだけで根本的な解決にはならないって一瞬で跳ね除けてたのが個人的にはグッときましたね。フィリアを機械ではなく今を生きている一人の人間として見ているからこその考えなので。

発売前予想していたのは、タイトルロゴ下の英文もあってジュードは死んでフィリアが人類救済のための永久の存在になる話だったんですけど、そうならなくて本当に良かったです。バッドエンドがあったら数日寝込んでました。

公爵は今いるフィリアのことを結局アンドロイドとしか見てないし、ジュードに対して過去を引っ張りだして運び屋なんだから仕事しろと誤った説得をしてたし、とにかく他人の気持ちを考えうることがない人でしたね。これまで何度も失敗してたし、時間がなくて焦っているのはわかりますが、にしても……科学者然としていて彼も良いキャラクターだったと思うので、機会があれば過去編でも見てみたいですね。

こいつはエワルドのためのハダリーじゃない。ただのハダリーだ。←本作屈指の名文

 

宇宙から帰還し、新しい旅の出発へ。

ジュードが想像より長生きだったの、嬉しかったです。公爵撃った後すぐ別れに移るかとヒヤヒヤしましたが、しっかり猶予があったんですね。おかげでラストシーンの破壊力がとんでもないことになりましたが。

ジュードの機械フェチな側面が見れるシーン、大好きです。フィリア相手に完全に心を許して、運び屋ではなくただのジュードとしての一面を見せているのが本当に良くて……フィリアが約束について嘘を言い張るずる賢さを得たからこそ見られた光景なのも好き。

Ver君も可愛くて好きです。彼の存在はたとえシンギュラリティマシンであっても、分かり合えることを象徴しているのかな。フィリアはジュードと別れた後、豪華特典版のアフターストーリーを読めばわかりますが不老のアンドロイド故の孤独を抱えることになりますが、彼のような存在がいるだけで独りきりにならずに済んだというのがせめてもの救い。

 

二人の旅の始まり。チャプタータイトルが「本当の旅」なの好き。仕事ではなく、ただ二人のための旅。

ジュードが死ぬまでの約70日間が詳細に描かれるのではなく、モノローグで簡潔に語られるからこそ、胸に沁みるものがありましたね。彼の人生最後の旅は、危険は多くとも穏やかなもので、ジュードは本当に幸せだったんだなって実感できますから。この時点で涙腺危なかったです。

フィリアが人を殺すシーン、物語のターニングポイントになると予想してたけどそんなことはなかったな。運び屋にとっては当たり前にやらなければいけないことですからね。もう完全にこの世界の人間になった彼女は、本能を乗り越える強さを身に着けていた。

 

そして、このゲームの全てはここのためにあったと言っても過言ではないかもしれない。ジュードとフィリアの別れ……ラストシーン。今までの積み重ねが、プレイヤーに忘れられない感動を与える。本作がKey作品である所以はここにあります。

盛り上がる挿入歌が挟まれるわけではなく、静かなBGMの中と美しい景色の中でジュードの意識がどんどん薄れていく様に、涙が止まりませんでした。声優二人の名演もあって、ここ数年のKey作品で下手したら一番泣いたかもしれない。この記事を書くために改めて今見返しているのですが、涙を堪えるのがちょっと大変です。というか堪えられてない。無理。

ジュードが、フィリアにいきなり「お前は俺の娘だ」と断定して言うのではなく。まず「おまえはおまえだ」と死んだ娘と重ね合わせるようなことをするのではなく、確かな個の人間としてフィリアを認識して。「娘って思っちゃだめか?」と問いかける様に、彼が抱えている優しさが溢れ出ていて、もうこの時点でダメでした。

密林で戦うシーンでは、「娘のように思いかけてる。でも、それは欺瞞だ」と過去の傷から自分の想いを認められずにいたのに。死の直前にようやく胸の内を見せられたのが、彼の変化が表れていて、この数行のテキストだけでこのゲームをやっていて良かった……って思いました。

公式サイトに載っているジュードのグレイという姓が、ここに来てついに作中で語られて、フィリアに受け継がれていくのは、泣きながらも最後の最後までお話作りが上手すぎるだろと感心してしまいましたね。名前をつけてやるんじゃなかった、と以前嘘をついていたジュードがこんなことを言えるぐらい穏やかに死ねるのは、こっちまで救われた気分になれました。死に方を選べるやつは幸せとデリラの最期を見て呟いていたジュードも、ちゃんとこうなれて良かったなって。

おまえは俺よりずっと自由だ、娘を送り届けた。ジュードが必死に紡ぐ一言一言が切なくも美しくて、彼に優しく寄り添うフィリアの声色は最初の頃とは比べ物にならないもの頼もしくて立派で。永遠の別れが訪れる悲しいシーンではありますが、それだけじゃなくあたたかさも溢れ出てている……クリア後のこのゲーム全体の印象そのものですね。ポストアポカリプス舞台の過酷で冷たい世界のお話だからこそ、感じ入るものがあります。二人の心のあたたかさが、画面越しのプレイヤーまで運ばれてくる。

個人的に一番好きなシーンは間違いなくここです。ほとんどのプレイヤーは車の中かここって答えるんじゃないかな……

 

朝日が昇ってきて、このゲームで初めて語り部が移ります。

人のために生きる機械の証である花が墓に手向けられて。父親の想いが託された娘の、新しい旅の始まり。

 

歌が始まり、エンドロールが流れ始める。

終のステラ、とんでもない大名作だった……ありがとう……ってなってたところに。

 

キャスト

フィリア・グレイ 指出毬亜

 

それは流石にズルすぎるでしょ。

勘弁してほしいわマジで。

不意打ちのせいで泣きじゃくりながら、美しい季節の移ろいを眺めました。

エンディングテーマ「Ortus」はイントロとアウトロの靴音が印象的ですが、最後に新しく花が添えられているのは、そういうことなんでしょう。こういう細かいズルい演出が多すぎる……

 

 

 

やっぱりあったエピローグ。知らないアンドロイド視点でびっくりした。この明るいシーンのおかげで、独特の読了感が醸し出されていたので、最後まで隙のない作品でした。

彼女を助けたのは一人の運び屋。

背が高くなって、声も変わって、父譲りなのかすっかり図太くなって、大人の頼もしい女性になったフィリアと立派な四足歩行に成長したVer君の姿が。

相当な年月が経ったようですが、フィリアが葛藤もなく暴漢をあっさり殺すぐらいには人類は残っているようですね。

フィリアがいなければ、おそらく人類はこれだけ時間が経つと滅びていたのではないでしょうか。

ジュードの選択は、結果的には”偉業”だったんでしょうね。英雄たちの名前は忘れられても、彼の名声は残り続けているのでしょう。

だって、心と名前を継ぐ一人の人間が、今も大切なものを運び続けているのですから。

 

 

だいぶ長くなってしまいましたが、ここまでがシナリオの感想です。振り返っていて本当に素晴らしい物語だと改めて実感できました。これ本当に短編?内容が濃すぎるんですけど?

このまま記事を終わってもいいのですが、ちょっとだけ他について触れて、最後にまとめの感想を書きます。

 

キャラクター

公爵とデリラとガブリエルについてはシナリオ内で触れたので、メインの二人について軽く。

短編なら、キャラクターが少なければ少ないほどいいと言っても過言ではないかと思います。終始この二人の関係性のみに絞ったおかげで、長編に勝るとも劣らない感情移入度と感動を生み出していましたし、Keyはこれからも定期的に短編完結作品を出してほしいですね。

 

フィリア

か わ い す ぎ る

無知無垢なアンドロイド、ほんまにかわいい……人間らしくなってもかわいい……

 

個人的屈指の萌えシーン。

「悪口?」ってちょっと怒るのが本当に可愛すぎてびっくりしました。

立ち絵がまずめっちゃくちゃかわいいですし、声もかわいらしいので、自然と愛着が湧いちゃうんですよね。

 

ヤバい、このままだと"可愛い"だけでキャラ感想が埋まってしまう!一旦フィリアに関連して自分語りさせてください。

元々、アンドロイドやAIといった要素を持つキャラクターが大好きなので、終のステラはフィリアの存在を知った時点で購入を決めていました。どれぐらい好きかと言うと、最近映画アイうたを見てボロボロ泣きましたし、昨日はブルアカの最推しがアリスなので最新ストーリー読んでまた泣いてました。これで伝わるのか微妙な作品チョイスですがそういうことです。

あと擬似家族も好きと言いましたが、今年はスパイファミリーにハマりました。終のステラ、ちょっと自分向け作品すぎてびっくりしますね。ここまで主要要素が好みなKey作品に今後出会えるんだろうか。

 

さて、話を戻して……

フィリアはアンドロイドではありますが、一般的なロボットキャラとは違って最初から表情豊かで出会った直後のジュード相手にムッとするぐらい感情表現もできるものの、人間らしさというものを理解できていないが故にセリフが人外ならではのものになる……ってバランスが絶妙でしたね。なかなか他作品でいないタイプかと。

最初は人間のふりをしているように見えるアンドロイドが、ジュードや様々な人々を見て段々に人間らしくなっていって、最後はジュードを愛する娘という確かな個として確立するの、ベタですが最高ですね。

 

ラストシーンの成長して頼もしくなったフィリアは見ていておっきくなったなぁ……!とジュードでもないのに親目線で感動してしまいました。想いの継承の話が大好きなので、まさかそこまで見せてくれるとは思わず大興奮。正直めっちゃくちゃ好みの姿なので、もっと成長後フィリアの活躍が見てみたいですね。ネタバレすぎて難しいのはわかりますけど。キネティックノベルでも異例の大ヒット作品となっているようなので今後に期待してみようかな。

豪華限定版のアフターストーリーでは、その後のフィリアがどのようにして人類と接していたか語られていたのが知られて嬉しかったです。もう売り切れて入手できないものなので詳細な感想は省きますが、多くの人に読んでほしいのでなんらかの形で公開してほしいですね……

ジュード

二人の関係性が大好きですが、単体のキャラクターとしてどっちが好きかと言われれば、実はジュードだったりします。抱えている過去と罪の意識がまず良くて、頭良くて強くて格好良いし(フィリアみたいな言い方になっちゃった)、何より不器用なところが本当に好きで……

Key主人公でもトップクラスに好きです。ちなみにあと好きなのはRewrite天王寺瑚太朗くん。両方田中ロミオ作品じゃん。

 

この世界で生き残ってきただけあって、ジュードのシビアさが甘く物事を考えがちな初期フィリアとの会話において程よいスパイスとなっていましたね。彼だからこそ成立する読みやすさだと思います。

運び屋で仕事のために荷物を守り続けてきた彼が、どんどん人間らしくなっていくフィリアと接することで、凝り固まっていた心が徐々に融けていく様が良いですね。ですが、大切な家族を捨てた過去の罪悪感や公爵にフィリアを引き渡すことを隠している事実からか、なかなか彼は自分の気持ちを素直に吐き出すことができない。嘘をついて銃口を向けるまで、フィリアを拒絶してしまう。

すれ違いが起こったまま二人が分かれるのはあまりに悲しすぎるので、繰り返しにはなりますが本当の想いを伝えられて、確かなあたたかさを抱えたまま彼の一生が終わることができて心の底から良かったと思っています。

最初から最後まで不器用な人ではあったけど、彼の心はフィリアの胸に確かに運ばれた。そしてフィリアが、また新しい誰かにその心を運ぶ。その繰り返しで、未来は確実に良い方向に向かっていく。

最高の運び屋で、父親でした。

BGM

Key作品なので、言うまでもなくハイクオリティ。

あのIceさんがBGMの大半を担当していると聞いて期待してたのですが、全体的に落ち着いた曲が多くて、雰囲気にマッチしていて好みでした。

 

BGMについては、やはり「Yearning for my F/D」が印象的。二人の別れを彩る曲として、これ以上ないほど的確な音楽でした。あと曲名が卑怯。F/D、言うまでもなく。自慢の娘、自慢のお父さん。

クリア後にタイトル画面の厳しい世界を表したかのような一曲「Beginning」を聞いて余韻に浸る時間は、ノベルゲームあるあるですが至高の時間でしたね。クリア後にタイトルから二人が消えるのは、旅が終わったのではなくまた新しい旅の始まりであるので、この曲名は的確。

あと個人的に「Zephyr」が結構好きです。こういう幻想的な曲好み。

 

ボーカル入り3曲も、どれも最高でした。

まずOPの「breath of stella」は、とんでもない名曲。発売前OP映像が異例の伸びだったのも当然と思えるぐらい曲も映像もかっこいい。OP時点でラスサビまで入れる判断、賢すぎる。一気に引き込まれますもん。あと二番の歌詞は銃口を向ける車のシーンを想起させるものなのも良いですね、物語への寄り添い方が見事。そして本編後のフィリアの心境が語られるネタバレ全開の最後のフレーズは、個人的に終のステラを象徴する歌詞だと思っているし、めちゃくちゃ気に入っています。KSL2023で聴きたい曲ナンバーワンかもしれない。

挿入歌「終の祈り」は、3曲中唯一ジュード目線の歌詞ですね。彼の言葉とは裏腹のあたたかい想いが溢れ出た歌声と曲調に、聴いてるだけでうるっときます。迂闊にランダム再生で流せないタイプの曲。rionosさんの歌声はサマポケで大ファンになったので、ヘブバンに続き終のステラでも聴けて嬉しい。

ED「Ortus」は、イントロアウトロに靴音を入れるのがまず天才。フィリア・グレイの心境が美しい言葉で語られていて、あたたかい曲調もあって全てのフレーズが胸に残ります。個人的に好きな歌詞が、「初めての「さよなら」も言えたよ」って部分。別れをこんな前向きに捉えられる強さを持つフィリアは、紛れもなく凄い人です。

おわりに

というわけで、ここまで随分長くなってしまいましたが、〆に。

 

終のステラ、素晴らしい物語でした。

愛、人間、機械、理性と感情、などなど……色々な要素を含んだ物語でしたが、しっかりした倫理観の上で全て丁寧に描いていたのが非常に好印象でした。

特に、フィリアを一個人として描くことを一貫していたのが、AIをテーマにした作品として真摯に存在と向き合っていて本当に嬉しかったですね。知性のあるアンドロイドをここまでちゃんと人として扱っている作品ってなかなかないので……

世界か大切な人を選ぶ話とは表現しましたが、フィリアは精神を移さなくてもこれから未来ある一人の人間としてできることがある……って語られていたのがそこまで極論じゃなくて良かったですし、実際運び屋として活躍し続けていたのがエピローグで保証されているところまで含めて前向きで明るくて好みでした。別に自己犠牲なんてしなくても、未来は良いものにできたんですね。

壮大なSFストーリーではありましたが、根底にあるのは、父と娘の親子愛でした。そんなスケールの小さい、ちっぽけで見えないものが、回り回って世界を救うことだってある。

どんな世界であっても、そういう人の想いと継承が大事なんでしょう。王道って最高だ……

 

大ヒットしている作品なので、メディアミックスしてほしいですね。テキストが非常に面白いからゲームが一番というのは承知の上で、個人的には1クールアニメ化してほしいという願いがあります。尺的にちょうどいいし、何より二人が動いて話している姿をずっと眺めていたいので……

サマポケ、ヘブバン、プリマドール、キネティックノベル三部作と素晴らしい作品を続々と発表し続けるKeyは、今が全盛期だという確信があります。今回も、一生忘れられない作品となりました。来年も様々な展開を楽しみにしています。

 

終のステラ、プレイできて本当に良かったです。ありがとうございました!